自然の色彩を切り取り、食卓に“選ぶ楽しみ”を【後編】 ~サステナブルコレクション「杉皮」「海水」から全6色の新ラインナップが登場~

自然の色彩を切り取り、食卓に“選ぶ楽しみ”を【後編】 ~サステナブルコレクション「杉皮」「海水」から全6色の新ラインナップが登場~

ARASのサステナブルコレクションから「杉皮」と「海水」に新しいカラーバリエーションが登場した。前回に引き続き、新商品ができるまでの工程を辿りながら、ARASチームの想いを伺った。前編では「つくる視点」、後編では「届ける視点」を紹介する。

 

水上絵梨香/ブランドマネージャー(石川樹脂工業)
石向洋祐/ブランディングディレクター/アートディレクター(POOL inc.
矢田朋未/グラフィックデザイナー

嶋津/インタビュアー

緻密な計算と妥協なき検証

プロトタイプが出来上がる度に、それを自然光、白熱灯、間接照明など、さまざまな照度の下に置いてきめ細かにチェックする。ECサイトや売り場の照明の下で見た時と、購入後に家のリビングで見た時では印象が変わるからだ。明かり次第では、ほとんど違いを識別できない色味もある。プロダクトに対して、ARASチームは一切の妥協がない。

“新しさ”を届けるコミュニケーション

ARASは扱う素材や商品開発に、前例のないアプローチで進めている。“新しさ”は、それが過多になるとユーザーとの間に距離を生んでしまうリスクがある。ARASの世界観をビジュアル化し、世の中にいかに届けるかを考える二人──ブランディングディレクターでありアートディレクターの石向さんとグラフィックデザイナーの矢田さんはユーザーとのコミュニケーション(届け方)の観点から色味のバランスを考える。

石向:
海水シリーズのコーラルピンクは、硝子では再現できない素材感と独特の雰囲気を兼ね備えた、今までに見たことがない器となりました。ただ、既視感がないだけに、見せ方には慎重にならなくてはいけません。お客さまが広告などで商品を目にした時は、その印象的な佇まいに目を惹かれるのですが、どうしても扱い方のイメージが湧きづらくなります。

たとえば、海岸沿いに器を置いてハワイアンな印象付けをすることは容易ですが、そうなるとパンケーキを盛り付ける以外の選択肢が思い浮かばなくなってしまいます。温野菜や刺身を盛り付けた和食との組み合わせなど、意外性のある提案をして「こういう使い方もあるんだ」と思ってもらえる工夫がどれだけできるか。

料理を楽しみたい人のためのカラーバリエーションだからこそ、楽しみ方の方向性を先に指し示すことも、僕たちの役割だと思っています。インパクトのある器でありながら、それが日常の延長線上にあることをビジュアルで提示する。お客さまが「これなら使えるかも」と思ってもらえるようなコミュニケーションを含めて、色味を考えています。

 

矢田:
従来の「杉皮」は渋く、シックな色味が特徴で人気がありますが、今回の新色では明るい木の色を模索しました。陽の差し込む杉林の表情には、やわらかいイメージがあります。従来のプロダクトとは雰囲気も変わり、器を手にしてくれる人も、置かれる食卓も変わるんじゃないかとわくわくしました。実際、わたしもこの色味がほしいです。杉皮だけでは広がらなかった食体験の幅を、今回の新たなカラーバリエーションによってサポートできるのではないかと思っています。

器を考えながら、同時に器が使われる風景やお客さまへの伝わり方も想像する。その多角的な視点が、プロダクトの精度を高めている。数々の検証の結果、全6色(新色は4種)のカラーが誕生した。一つひとつの色味の魅力はもちろんのこと、シリーズごとのバランスやその関係性にもストーリーを感じる内容となっている。

杉皮シリーズ
従来の「ブラウン」
植物の生命力を感じる、深く暗い森の情景を切り出した「ブラック」
杉の木が並び立つ、杉林の情景を切り出した「ライトブラウン」

海水シリーズ
従来の「ミネラルホワイト」
南の澄んだ鮮やかな蒼い海の情景を切り出した「マリンブルー」
夕陽によってピンク色に染まった海の情景を切り出した「コーラルピンク」

 

問いかける器

「サステナブルって何?」

 器をデザインするだけではなく、人のこころを、そして、社会の在り方をデザインする。プロジェクトマネージャーの水上さんは「サステナブルコレクションは未来の器への一つの提案です」と話した。ARASの器を手にした人が、サステナブルについて想いを巡らせたり、「これからの器」について考えるきっかけになる。器自体が、コミュニケーションとして機能する。

水上:
単にカラーバリエーションを出すだけではなく、食体験を拡張すること。利益を追求することも重要ですが、社会に寄与するような価値観を提示したい想いがあります。サステナブルコレクションは「杉皮」「海水」共に、産業廃棄物となった自然の素材を再利用して、食体験を豊かにする素材として価値変換できないかという問いからはじまりました。地球に存在する素材と向き合っていくという文脈があります。

商材を増やすことを目的に置くのではなく、ARASの価値観を伝えることが重要です。根幹にあるサステナブルコレクションのストーリーを伝えながら、器を選ぶ楽しさを味わってもらい、それが結果的に食体験を豊かにする。今回の新色展開が、いつもご愛用してくださるみなさんはもちろんのこと、まだ手にしたことのないお客さまへ届くきっかけになればと思っています。

このようにして、食卓に豊かな彩りと「選ぶ楽しみ」を届ける新たなプロダクトが生まれた。自然の情景を落とし込んだその美しいビジュアルにこころ踊り、そこに込められたサステナブルのメッセージに想いを巡らせる。ARASがデザインする、器を通したコミュニケーション。まさに、それは“問いかける器”。

ARASチームは、食卓に生まれるわくわくを創造する。

 

インタビュー/編集:ダイアログ・デザイナー 嶋津

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